日本の梅雨を美しく彩る紫陽花の花。
雨に濡れてなお、その美しさを感じさせる紫陽花は、日本人なら誰でも心を揺らす日本の代表的な花ともいえます。
「紫陽花や 藪を小庭の 別座舗」松尾芭蕉も紫陽花の自然のままの美しさをたたえており、現在でも多くの人が紫陽花を愛し、家の軒先をあざやかに飾っています。
でも紫陽花を買うことってあまりないですよね。
そう、多くの方は「挿し木」と呼ばれる方法で、自宅で栽培して毎年鑑賞を楽しんでいるんです。
我流の挿し木でもけっこう成功したりもします。
みなさんも下記のいくつかの注意点さえ気をつければ、鬱陶しい梅雨の気分を少しでも明るくするために、簡単に挿し木で紫陽花を増やすことができるので是非試してみてください。
それでは挿し木に失敗しないための注意点をいくつかご紹介していきますね。
目次
紫陽花の挿し木の正しい時期
紫陽花の挿し木に大切なことは「時期」と「挿し木選び」のふたつだけです。
基本的には適切な時期に挿し木を準備して、水を切らさないように鉢植えすれば発根しどんどん育って翌年から翌々年には花を咲かせるようになります。
紫陽花の挿し木(=挿し穂)を調達する時期は?
① いつ紫陽花から挿し木となる枝を調達するか
調べてみると6月~7月であったり5月~7月など多少ズレが見られます。
品種、寒暖の差や情報提供する側の栽培環境によって、挿し木の最適時期に差が出るのは当然と言えば当然です。
平均的には6月~7月に挿し木をするのが一般的なようで、
この時期は紫陽花の開花時期と重なります。
この時期に挿し木をする理由としては、紫陽花はある程度の湿度を好むので一定の降雨による湿度を保つことができる梅雨の時期だからこそ成功しやすいということです。
② 花が咲き終わった8月の上旬が良い
8月の上旬の暑い時期のほうが、挿し穂からの発根が成功しやすいとの情報もあります。
以上から、あなたがお住まいの地域での環境条件もあるでしょうから、数本挿し木を準備して、
- 6月~7月に調達した挿し木
- 花後の8月上旬に調達した挿し木
で、発育を比較してみると良いかもしれませんね。
北海道や沖縄で挿し木する時期は?
紫陽花は耐寒性があり、冬季は落葉して休眠期に入るので、
寒さの厳しい北海道でも栽培は可能です。
ただ、平均気温の違いから開花時期は本州とは異なり、1~2か月ほど遅れます。
北海道では夏の花として愛されているようです。
反対に、沖縄などの暑い地域でも紫陽花の花を楽しむこともできます。
こちらは本州の紫陽花よりもひとあし早く5月頃開花するようです。
ですので、挿し穂を調達するのは、
- 比較的寒い地域にお住まいの方は8月頃
- 暖かい地域にお住まいの方は7月頃
にしたほうが良いでしょう。
いずれにしても広く気温の差に適応できる強くて栽培しやすい花ですので、専門知識がない方でも簡単に栽培することができるので、是非挑戦してみてください。
どんな枝を選ぶと成功しやすいか
基本的に挿し木をして1か月程度で発根することを成功とすると、
経験上挿し穂を選ぶ際、紫陽花の葉の付け根から「脇芽」と呼ばれる小さな新芽があるものを選ぶと、成功しやすいです。
もちろん脇芽が出ていなくても発根はしますので安心してください。
図解!実際に挿し木してみましょう
挿し木の方法にはおもに「一節挿し」と「二節挿し」のふたつがあります。
- 「一節挿し」は、紫陽花の茎の一節ごとに切り取るので、多くの挿し穂を用意することができます。比較的広いお庭やお知り合いの方に差し上げようとしている方にはオススメです。
- 「二節挿し」は一節目の葉のみ残して、二節目の葉を落とし、その部分を用土の中に埋めることでその箇所からの発根を促す方法です。
しかし一節挿しの場合でも茎部から発根が見られることから、あえて二節挿しをする必要もないかもしれません。
挿し穂を準備しましょう
ここからは図を使って説明します。
(図の①から②を第一節、②から③までを第二節と便宜上呼ばせてもらいます)
先ほども説明した通り、図の①と②で切り取り挿し木する方法を「一節挿し」といいます。
そして①と③で切り取る挿し木を「二節挿し」とします。
カットするときは葉の付け根の上部1センチくらいを残しておくと良いです。
図では少しわかりづらいかもしれませんが、①でカットしたすぐそばにふっくらと脇芽がのぞいているような挿し穂が成功しやすいですが、必ずしもそれを選ぶ必要はないのでご安心を。
・図のように二節挿しする場合は第二節の葉を付け根から切り落とします。
これは挿し木の際に、この葉の付け根を用土に埋めることでそこから発根しやすくするためです。
しかし一節挿しの場合もそうであるように茎部からも発根しますので、
とりあえずは3センチ程度用土に隠れるようにすれば良いです。
一節挿しの場合は第二節も第一節同様に挿し穂にしますので、ここでは切り落とさずに残しておきます。
・一節挿しの場合ですが、図でもわかるように葉の半分あたりから切り落とします。
これは挿し穂の水分の蒸散を極力抑えるためです。
半分から3分の1程度まで切っても、脇芽として新しい葉が生えてくるので心配せずに切り取ってください。
ちなみに花が咲いていた節は生育しないので、挿し木としては使いません。
ここで差がつく!上手な挿し木の方法
挿し穂の準備ができたらすぐに用土に挿す。
・・・これは普通のやり方です。
挿し木で失敗しないためには、「水揚げ」をしなくてはいけません。
「水揚げ」とは切り取ったばかりの挿し穂を一時間程度、水に浸しておく方法です。
これで挿し穂は十分な水を吸い上げるとともに、切り取られた部分だけで育っていく準備をはじめます。
紫陽花の水揚げポイント
挿し穂の用土に挿す切り口をあらかじめ斜めに切っておくと、
吸水するための面積が広くなり成功率も上がります。
(その際はよく切れる、アルコールなどで除菌した清潔な刃物で切ってください。くれぐれもケガのないよう)
そして水あげを終えたら、いよいよ挿し木です。
鉢はホームセンターなどで売られている素焼きの駄温鉢が通気性と排水性が確保できるので最適です。
あまり深すぎると排水と給水のバランスが悪くなるので浅めのものが好ましいです。
ただ駄温鉢は室内で栽培する際には、
あまり過失になりすぎると鉢自体にカビが生えてくるので注意してください。
用土選びは排水性と通気性重視
用土は鹿沼土や赤玉土やピートモスなどなんでも構いません。
これらをブレンドして使用する方もいらっしゃるようですが、単体の使用でも大丈夫です。
個人的にはある程度の保水性と排水性がある「鹿沼土」がオススメです。
さて鉢と用土が揃ったらいよいよ挿し木。
用土を先に十分に湿らせてから、
あらかじめ図のように割り箸などで大きめに挿し木のための穴をあけておきます。
けっして挿し木をそのまま用土に差し込まないように。
繊維が破壊されて発根率が下がるだけでなく、
そこから腐ってしまう可能性もあります。
挿し木を挿したら、あとはやさしく用土を穴の隙間に押しやるように詰めていってください。
さらに成功率を上げたい方は・・・
ちなみに発根促進剤として、ホームセンターなどで「ルートン」や「メネデール」といった薬品も販売されています。
これらを使用すると発根成功率はたしかに上がりますが、必ずしも使用しなくても大丈夫です。
挿し木後の水やり管理はこまめに
紫陽花は水を好む性質ですが、同時に過湿過ぎてもいけません。
ペットボトルでも栽培可能ですが、底に穴を開けなかったり穴の数が極端に少ないと通気性と排水性を確保できず、挿し木に失敗してしまいます。
挿し木後は、明るい半日蔭(カーテン越しの明るさや室内の明るさくらい)で管理します。
上手くいくと、挿し木して2週間から1か月後には発根を確認できるようになります。
それまでは朝晩の2回水をたっぷりと与えます。
紫陽花の水やりのコツ
- 紫陽花には「葉水」も効果的
(スプレーで葉の表面に水を吹きかけること) - 水やりの際、受け皿を使わないこと
受け皿を使わない理由は、水やりが鉢内にたまったガスを一気に押し出す効果があり、鉢内の水分を新鮮なものに交換する目的があるためです。
十分に発根した後の挿し木の管理
挿し木から1か月程度経過したら、一度発根しているか確認してみましょう。
十分発根していたら、「鉢上げ」と言って、ひと回り大きな鉢に植え替えます。
この頃からだいぶ気温も下がって、
紫陽花も紅葉のための準備をはじめやがて落葉し、休眠期に入ります。
ご自宅の庭に地植えしたいという方は、
翌年の寒さもだいぶ落ち着いてきた3月~4月頃がいいでしょう。
それまでは辛抱強く、直射日光と西日を避けた場所で管理すると良いです。
紫陽花の挿し木の施肥について
肥料を与えたくなりますが、挿し木一年目は使用しないほうが無難です。(十分成長します)
- 肥料を与えたいという方は、
翌年、花が咲いた後花芽を形成する前の8月に速効性の液肥(ハイポネックス等)を与えましょう。 - 冬が来て休眠期に入ってからは、
緩効性の肥料(たい肥や油粕等)を紫陽花の株もとから少し離れたところに置き肥すると良いでしょう。
挿し木をしたら紫陽花の色が変わる?
「もともと挿し穂を調達した紫陽花の花は赤だったのに、挿し木をして花が咲いたら青になった!」
という声があります。
ご存知の方もいらっしゃるかもしれませんが、
紫陽花の花色は土壌のpH(酸性度)値によって変化するものがあります。
その仕組みは、土壌が酸性(pH7未満)なら、
アルミニウムイオンが土壌に溶け出し、紫陽花に吸収され、もともと紫陽花が持つアントシアニンと結合して花色が青色になるからです。
その反対に土壌がアルカリ性(pH7以上)だと、
アルミニウムイオンも土壌に溶け出すことなく、紫陽花に吸収されることもなく、もともとのアントシアニンの色である赤みが強い色となります。
同じ株なのに赤や青、その中間の紫の花が咲くことも珍しくないのは、紫陽花一株のなかでもアルミニウムイオンの吸収率がまちまちだからなのです。
紫陽花の色についての詳細は、下記を読んでみてください。
⇒ 紫陽花の色は土で決まる!土壌によって色が変わる理由とは?
紫陽花の挿し木時期とコツまとめ
いかがでしたか?
ここまで読んでくださってありがとうございました。
最後に、今回お伝えしたことを簡単におさらいしておきましょう。
- 挿し木は6月~7月に行う。
- 挿し穂の葉は半分に落として、茎は斜めに切り落とす。
- 1時間程度「水あげ」をする。
- 通気・排水の良い鉢に挿す。
- 水やりは朝晩2回たっぷりと。
- 根が張ってきたら春先にひと回り大きな鉢に植え替える。
ここさえ押さえておけば、ほとんど失敗することはないと思います。
あとは実践と経験あるのみです。
ぜひ来年の梅雨の時期は、紫陽花を咲かせてジメジメした気分を追い払いましょう。
また、挿し木をしたあとの紫陽花の植え替えについては、
こちらの記事で解説しています。